トリハロメタンの耐容一日摂取量の求め方と値

トリハロメタンは、クロロホルム・ブロモジクロロメタン・ジブロモクロロメタン・ブロモホルムという4つの物質の総称だ。実際の水道法では、4つの物質それぞれについて基準値が定められている。なので、4つの物質それぞれについて、耐容一日摂取量がどのように求められているのか、詳しく書いていきたい。

クロロホルム

[icon image=”arrow3-b”]無毒性量(体に入っても悪影響が出ない量)は?
犬に長期投与を行った試験とマウスを使った試験が実施されている。
犬の実験からは 15mg/kg/day  と推定されている。
マウスの実験からは 10mg/kg/day  と推定されている。

※2つの異なる実験から得られた値が近い値なので、信頼性の高いデータだと判断できる。

[icon image=”arrow3-b”]耐容一日摂取量(1日に飲んでも安全な量)は?
無毒性量は、「体重1kgのほ乳類が、1日に飲んでも影響が出ない量」というイメージだ。でも、当然のことながら動物と人間では、体のつくりが違う。そこで、この無毒性量から「人間が毎日飲んでも影響が出ない量」を求める。この量を耐容一日摂取量という。耐容一日摂取量を求めるには、無毒性量を不確実係数というもので割るのだ。クロロホルムの場合は、不確実係数として1000をつかうので、

15mg/kg/day ÷ 1000 = 0.015mg/kg/day

この 0.015mg/kg/day が耐容一日摂取量、つまり毎日飲んでも影響の出ない量になる。

[icon image=”arrow3-b”]水質基準は?
耐容一日摂取量は「体重1kgの人が、毎日体に取り入れても安全な量」という意味だった。しかし、体重1kgの人なんて、実際にはいない。では、水質基準はどのように決めているのか?
ここで、WHOは「平均的な人」を考えて、水質基準を決めている。厚生労働省も同じ方法を使っている。ここでいう「平均的な人」は
   (1) 体重50kg
   (2) 1日に飲食する量の内、飲水の占める割合が20%
   (3) 1日2Lの水を飲む
という条件で考えている。この条件で計算すると、

   (1) 0.015mg/kg/day × 50kg = 0.75mg/day ・・・1日に飲食しても大丈夫な総量
   (2) 0.75mg/day × 0.2 = 0.15mg/day     ・・・(1)の総量のなかの飲水の分量
   (3) 0.15mg/day ÷ 2L/day = 0.075mg/L   ・・・(2)を水の体積で割って、濃度にしたもの

となる。つまり、クロロホルムの濃度が0.075mg/Lの水を毎日飲んでも悪影響が出ないということだ。もっとも、厚生労働省の値は、これに動物実験を行っていた日数による補正などを加えて、0.06mg/Lという値を規制値として使っているぞ。ちなみに、これはWHOの勧告である0.2mg/Lよりもはるかに厳しい値だ。

ここで、「子供の体重は50kgよりも軽いぞ。子供でも安全なのか?」と疑問に思った人もいるのではないだろうか?というわけでも、子供の場合でも計算をしてみよう。1日に0.75Lの飲料水を消費する体重5kgの乳幼児で計算してみる。ここで、クロロホルムは100%を飲み水から摂取していると考えると、

   (1) 0.015mg/kg/day × 5kg = 0.075mg/day ・・・1日に飲食しても大丈夫な総量
   (2) 0.075mg/day × 1 = 0.075mg/day     ・・・(1)の総量のなかの飲水の分量
   (3) 0.075mg/day ÷ 0.75L/day = 0.1mg/L   ・・・(2)を水の体積で割って、濃度にしたもの
 
となり、大人よりも基準が低い値になってしまった!乳幼児はミルク以外のものを口にする機会は少ないのだが、仮に水の影響を、全体の食べ物のなかの60%程度にすると、

   (1) 0.015mg/kg/day × 5kg = 0.075mg/day  ・・・1日に飲食しても大丈夫な総量
   (2) 0.075mg/day × 0.6 = 0.045mg/day     ・・・(1)の総量のなかの飲水の分量
   (3) 0.045mg/day ÷ 0.75L/day = 0.06mg/L   ・・・(2)を水の体積で割って、濃度にしたもの

となって、水質基準の0.06mg/Lと一致したぞ!飲水の影響をどの程度ととらえるかで基準値は変わってしまうが、0.06mg/Lというのが、安全に配慮した値になっているいえるだとう。

ブロモジクロロメタン

[icon image=”arrow3-b”]どの程度の毒性なのか?
国際がん研究機関(IARC)は、ブロモジクロロメタンをグループ2B(人の発がん性の可能性あり)に分類している。厚生労働省は、水質基準値の算出するのに1992年にAidaらによって報告された最小毒性量6.1mg/kg/dayを使っている。

[icon image=”arrow3-b”]耐容一日摂取量(1日に飲んでも安全な量)は?
6.1mg/kg/dayをつかって、クロロホルムと同じような計算を行う。

6.1mg/kg/day ÷ 1000 = 0.0061mg/kg/day

つまり耐容一日摂取量(毎日飲んでも影響が出ない量)は0.0061mg/kg/dayとなっている。

[icon image=”arrow3-b”]水質基準は?
クロロホルムのときと同じような条件で計算している。
  体重:50kg
  1日の食物の中で飲み水が占める割合:0.2倍
  1日の飲む水の量:2L

平均的な人として、この値を使うと

  0.0061mg/kg/day × 50kg × 0.2 ÷ 2L/day = 0.0305 mg/L

ということで、現在の水道基準値は0.03mg/Lとなっているぞ。ちなみにWHOの勧告だと0.06mg/Lなので、日本の基準はWHOよりも安全よりに設定されているのだ。

ブロモホルムとジブロモクロロメタン

[icon image=”arrow3-b”]無毒性量(体に入っても悪影響が出ない量)は?
ブロモホルム(CHBr3)は、1999年に国際がん研究機関 (IARC)ではGroup 3(ヒトの発癌性ありとは分類できない)に分類されているぞ。また平成4年以降、新しい発見や報告が無いため、平成4年から変更されていないとあるぞ。そのため、1989年に、肝臓の病理学的な変化が見られなかった量をもとにして、無毒性量が決められているのだ。

ジブロモクロロメタン:30 mg/kg/day
ブロモホルム:25 mg/kg/day

[icon image=”arrow3-b”]耐容一日摂取量(毎日飲んでも影響が出ない量)は?
無毒性量に不確実係数として1000を使って、

  ジブロモクロロメタン: 0.03 mg/kg/day
  ブロモホルム: 0.025 mg/kg/day

この値を使う。
ちなみに、WHOでは、2004年の評価では、

  ジブロモクロロメタン: 0.0214 mg/kg/day
  ブロモホルム: 0.0179 mg/kg/day
を耐容一日摂取量として採用している。

[icon image=”arrow3-b”]水質基準は?
クロロホルムのときと同じような条件で計算している。
  体重:50kg
  1日の食物の中で飲み水が占める割合:0.2倍
  1日の飲む水の量:2L

平均的な人として、上の値を使うと

ジブロモクロロメタン:0.03 mg/kg/day × 50kg × 0.2倍 ÷ 2L/day = 0.15mg/L
ブロモホルム:0.025 mg/kg/day × 50kg × 0.2倍 ÷ 2L/day = 0.125mg/L

日本の水質基準ではジブロモクロロメタンが0.1mg/L、ブロモホルムが0.09mg/Lとなっている。つまり、毎日飲んでも影響が出ない量を採用しているのだ。ちなみにWHOでの勧告は、ブロモホルムとジブロモクロロメタンの両方とも0.1mg/Lとなっている。日本の基準はWHOと同程度に厳しい値なのだ。

※耐容一日摂取量が違うのに、日本の基準とWHOの基準が同じ値になっているのが不思議ではないだろうか?これは、日本とWHOでは、想定している「平均的な人」が違うからだ。WHOでは平均的な人として「体重60kgで水を一日2L飲む人」を想定している。WHOの値で計算してみると、

  ジブロモクロロメタン: 0.0214 mg/kg/day × 60kg × 0.2倍 ÷ 2L/day = 0.1284mg/L
  ブロモホルム: 0.0179 mg/kg/day × 60kg × 0.2倍 ÷ 2L/day = 0.1074mg/L

となって、0.1mg/Lが基準として適正な値となるのだ。

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