水道水に使われる塩素の安全性について

よく「水道水が塩素臭い」なんて言う表現が使われることがあるくらい、水道水の消毒っていったら、塩素という言葉を思い浮かべる人は多いと思う。まあ、確かに消毒に使われているくらいだから、体に害はなさそうな気もするが、ただ、あの臭いをかぐと、どうしても体に良いとは思えないのだ。そこで、水道水に塩素がどんな風に使われていて、それが人体に悪い影響を与えることはないのか?ってことについて、この記事では書いていきたい。

日本の水道水での塩素の使われ方

まず、一般的に日本の水道局でどのような浄水処理が行われているのか?って言うことを調べてみた。浄水場では、川の水(原水)にいくつもの処理を施して、浄水にしている。すると大まかな工程はこんな感じだ。
(1) 凝集・沈殿処理
(2) 塩素処理
(3) ろ過
(4) 塩素処理
なんと、塩素は二回も使われているのだ。

1回目の塩素処理は水の中の不純物を取り除くため

1回目の塩素処理は、水をきれいにするために行われている。もう少し詳しく言うと、水に含まれる不純物(アンモニア態窒素や鉄など)を取り除くために加えられるのだ。

ここで問題になるのが、トリハロメタンという発がん性物質の発生だ。(トリハロメタンについては、別記事「トリハロメタンについて」に詳しく書いたので、そちらを見てほしい)

塩素処理を行うと、水中に含まれている有機物と塩素が化学反応を起こして、トリハロメタンが生成される。(2)で行われる不純物除去のための塩素処理のとき、水中の有機物の量が多ければ、その分だけ大量のトリハロメタンが発生する。日本の上水は河川に頼っていることが多いので、どうしても原水には上流でだされた生活排水などの影響を受けてしまう。そのため、下流の水や多くの水が集中する湖の水ほど、有機物の多い水となってしまうわけだ。

では、トリハロメタンの発生を抑えることはできないのか?

実はトリハロメタン対策が3つある。1つは下水処理の充実だ。川に排水する段階で、なるべく川の水を汚さないようにする訳だ。

2つ目は浄水処理の順番を変えて、塩素処理をする前に水中の有機物の除去を行う方法だ。水中の有機物が少なければ、その分だけトリハロメタンも少なくなるからだ。

3つ目が、東京都などが採用している高度浄水処理システムだ。一部の浄水場は高度浄水処理を取り入れることにより、塩素処理をしないことでトリハロメタンの発生を大幅に減らしていて、これが、今の日本の水道技術の最先端だと言っても良いだろう。

高度浄水処理について

では、高度浄水処理について、もう少し詳しく書いていく。高度浄水処理を採用している代表例が、東京と大阪だ。

東京都水道局が行っている高度浄水処理
(1) 凝集・沈殿処理
(2) オゾン処理
(3) 生物活性炭吸着処理
(4) ろ過
(5) 塩素処理

大阪広域水道企業団が行っている高度浄水処理
(1) 生物処理
(2) 凝集・沈殿処理
(3) ろ過
(4) オゾン処理
(5) 粒状活性炭処理
(6) 塩素処理

高度浄水処理は、オゾン処理、生物処理、活性炭処理をすることで、不純物を取り除くこと方法のことだ。塩素を使わないので、トリハロメタンの発生を大幅に減らすことが出来ている。また、今までは除去できなかった藻やカビの臭いも除去できるようになっている。

これだけ見るととても素晴らしいのだが・・・最大の欠点はコストが高くなること。設備費や維持費の費用が高くなるため、一部の浄水場にしか取り入れられていないのが最大のネックになるのだ。

2回目の塩素は消毒のため

2回目に塩素を使う時・・浄水処理(4)での塩素処理が、いわゆる「消毒のための塩素処理」になる。

水に塩素を入れると、水と塩素が化学反応をおこし、次亜塩素酸が発生する。この次亜塩素酸の酸化力によって、殺菌をしている。ただ、東京都水道局などでは、塩素ではなく次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)が使われている。加えられる量は「蛇口での残留塩素濃度が0.1mg/L以上」と法律で定められている。また、水質管理目標値として、「残留塩素濃度が1mg/L以下」になるように調整されている。つまり、日本の水道の塩素の濃度は0.1~1mg/Lになるように調整されている訳だ。

そして、実際の測定データは、各水道局のホームページで公開されている。水道局は、浄水場だけでなく、給水栓での水質検査を実施している。給水栓での検査は、私たちが使っている蛇口から出てくる水道水の水質検査と同じ意味を持っている。これらの検査を定期的に実施し、その結果をホームページ上で公開しているのだ。それを見ると、どの水道局でも残留塩素濃度は0.4mg/L前後になっている。

塩素による消毒はなぜ必要か

さて、塩素が殺菌処理をするしくみ、塩素がトリハロメタンの発生原因になっていることを書いてきた。では発がん性物質まで発生する可能性のある塩素を、なぜ使わなければならないのだろうか。

実は、それを示す良い例がある。
1991年にペルーでは大規模な、コレラの流行が起きた。これはペルー政府が、塩素消毒による発がん性物質の生成を重く見て塩素消毒を取り止めたため、上水を介してコレラの感染が広まってしまったためと言われている。上水の確保がどれほど重要かを示唆する、大きな事件だったと言える。

コレラや赤痢などの水系伝染病は、過去だけでなく現在でも感染爆発を引き起こし多数の死者を出している。これらの水系伝染病は糞便などを介して伝染していくので、流行を防ぐには汚物の安全な除去と汚染されていない水源の確保が大切だ。

過去、日本でも伝染病による死者が多かったのだが、現在は被害を極めて少ない状態で維持できている。これは、上下水道が普及したことで、塩素により消毒された清浄な水が簡単に手に入るようになったことと密接に関連しているのだ。
https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/water/w_info/img/s_kekka_topi07-pic01.gif

水道水の塩素に毒性はあるか

結論から言うと、水道水に含まれる塩素そのものには、危険性はない。

遊離塩素(ここでは水中に含まれる次亜塩素酸の意味)の毒性に関しては、いろいろと調べられていて、ラットへの2年にもわたる長期投与試験の結果から、無毒性量(NOAEL)の値として15mg/kg/dayが得られている。これは当然、急性の症状を起こす量よりも少ない量だ。

これに不確実係数として100を用いて、
15mg/kg/day ÷ 100 = 0.15mg/kg/day
となり、耐容一日摂取量(TDI)が0.15mg/kg/day となる。

体重60kgの人が1日に水を2L飲むと仮定すると、
0.15mg/kg/day × 60kg ÷ 2L/day = 4.5mg/L
となる。つまり、遊離塩素の濃度が4.5mg/Lの水を毎日2L飲んだとしても、全く影響が出ないということだ。

もっとも、遊離塩素の臭いに対して人は敏感に反応する。敏感な人は0.3mg/Lでも塩素の臭いに気付くそうだ。俗にいう「カルキ臭い」という奴だ。だから、実際にはそんなに濃度が高い液体を飲むことはありえないだろう。水道水の水質管理目標設定項目では、遊離塩素を1mg/L以下と設定しているので、許容値よりも安全に設定されているのだ。

水道水の消毒に使われる塩素をめぐる諸外国の状況

消毒に使われる塩素の量を諸外国と比べてみる。

WHOは、公衆衛生の観点から、危険な水によって人々が危険にさらされないことを目的にガイドラインを作成している。そのWHOの水質ガイドライン第4版をみると、「給水地点での残留塩素濃度が0.2mg/L以上であることが望ましい」「水系伝染病が疑われる場合は、残留塩素濃度を0.5mg/L以上」としている。

また、アメリカでは、消毒剤の最大残留濃度を4mg/Lとしている。これは、日本の水質管理目標値よりも緩い値だが、法律で決められた厳しい制限でもある。EUでは、消毒に塩素を使わずに、オゾンや二酸化塩素などを用いている。地下水の割合が多いのと、塩素によるデメリットを重要視し、塩素以外の消毒を用いている。

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